熊本の小さな本屋「橙書店」の店主、田尻久子さん。彼女のエッセイが好きで、これまでに出版された3冊は全部持っている。
中でも特に好きなのが2作目の「みぎわに立って」で、一編が見開き2ページで完結する。とても短いのに、何気ない日々の、些細な出来事の中の、何か大切なことが、すっと、心にしみこむ。なにもかもが自然で、くどくない。それがとても心地よい。
熊本には、心を休ませてくれる橙書店がある。映画の感想を伝えにくる人、泣きにくる人、北海道から葉っぱを送ってくれる人……。作家の渡辺京二、坂口恭平、詩人の伊藤比呂美、時には猫や鳩まで。チェーン店による画一化が進むなか、一人一人にやすらぎを与えてくれる熊本のカフェ兼本屋、橙書店には全国からファンが訪れる。2016 年4 月の熊本地震で、店は一部損傷。店主は新しい店舗への移転を決める。変わらぬ日常を作り出そうと静かな強い意志をもつ彼女のもとに、いつもの客が集い、新しい店で日々が始まっていく。橙書店の365 日を綴る掌編エッセイ集。(装丁:祖父江慎、根本匠 cozfish/版画:豊田直子)